Ridge Hike

〜稜線を繋ぐ旅

様々な貴金属を扱うメーカーの工場再構築計画の背骨として、75Mの廊下に配置するアートワークを担当しました。

このプロジェクトでは、先行して制作されていた栗田宏一氏の全国の鉱山で採取された土の作品「足元の虹」の色をベースに、デザインのカラーパレットとしました。
土のカラーパレットは、実に鮮やかな色彩で、まったく「自然」の土の美しさだと知って驚きました。
カラーパレットに選ばれた色は、各色が各地の鉱山と対応しています。その色が、全国各 地の大地の色であると意識してみると、それぞれの土地に思いを馳せることが出来ます。 ここから、物語は膨らんでいきます。同じ金山でも、佐渡と大仁では、全く対称的な色合いをしています。
一体、何がそんなに違っているのだろうと気になり、思わず各地の風土や歴史までも調べて、まるでその場所を旅するような気持ちになりました。
制作時に、各地の特色を書き留めたメモの一部を下記に記しておきます。

石見銀山(島根県大田市) : 山神社、島根はやっぱり神の国
別子銅山(愛媛県新居浜市) : 鉱山鉄道、SL
佐渡金山(新潟県相川町) : 日本最大の金山、佐渡トキ保護センター
神岡鉱山(岐阜県神岡町) : スーパーカミオカンデ、神岡町の鳥=雀
鯛生金山(大分県中津江村) : 鉱山の入口、地底博物館
大和鉱山(奈良県菟田野町) : 水銀鉱山、奈良といえば鹿
串木野鉱山(鹿児島県串木野市) : 坑道を巡るトロッコ列車
大仁金山(静岡県大仁町) : 浮遊選鉱場、シックナー(液体と固体を分離する装置)
阿仁鉱山(秋田県阿仁町) : 熊出没、マタギの里

こうして制作が進むにつれ、これは色に導かれた「観光」ではないかと思えてきました。
「観光」とは、光を観るという行為です。ここでは、顔料によって特定の波長が反射され た光=色を介して、各地の山々に思いを巡らせていくのです。その空想上の「観光」を描いたものがこの作品です。
実際には全く別々の場所にある山々が、空想の世界では、イメージとイメージが結びつき、一つの物語になっているのです。稜線の繋がりは、歴史の蓄積とともに、この先へどこまでも続く道のり、可能性を感じさ せるものがあります。

  • 栗田宏一「足元の虹」